最近、愛犬の「食欲が落ちた気がする」「下痢や嘔吐が続いている」「元気がないように見える」といった小さな変化を感じたことはありませんか?
犬にとってこれらの症状はよくあるものに見えるかもしれません。しかし、その背後に「副腎皮質機能低下症(アジソン病)」という深刻な病気が潜んでいる場合があります。この病気は、早期発見が何よりも重要であり、早く治療を開始できるかどうかで予後が大きく変わることもあります。
そこで今回は犬の副腎皮質機能低下症について、見逃されやすい初期症状から診断・治療方法、日常管理のポイントなどを解説します。
犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは?
副腎皮質機能低下症とは、副腎という腎臓の近くにある小さな内分泌器官が、体に必要なホルモンを十分に分泌できなくなる病気です。特に重要なのは、体内の水分や電解質のバランス、血圧、ストレスへの反応などに関わるホルモンが分泌されなくなることで、犬の生命活動そのものに支障が出てしまうことです。
この病気は発症頻度がそれほど高くはないものの、症状が他の多くの病気と似ており、診断が難しいことが特徴です。胃腸炎や腎不全、心疾患と誤認されることもあり、的確な検査を受けない限り、病気が見過ごされることもあります。
初期に見られる症状
副腎皮質機能低下症の初期には、以下のような症状が見られることがあります。
・食欲が落ちる、食事を途中で残す
・元気がなく、いつもより寝ている時間が長い
・下痢や嘔吐を繰り返す
・体重が徐々に減ってくる
・水を飲む量が変化する
・排尿の頻度に異常が見られる
・脱水、震え、ふらつきといった全身状態の悪化
さらに、症状には波があることが多く、「昨日は元気だったのに今日はぐったりしている」というように、日によって変化するケースもあります。特に、引越しや旅行、トリミングなど、犬にとってストレスとなる出来事のあとに症状が強く現れることも少なくありません。
これらの症状は、一見すると胃腸炎や感染症などでも見られるため、つい「様子を見てみよう」と判断してしまいがちです。しかし、「いつもと違う」と感じた時点で、できるだけ早く動物病院を受診することが、病気の早期発見に繋がります。
急性悪化(アジソンクリーゼ)の危険性
副腎皮質機能低下症が進行し、治療を受けずに放置された場合、「アジソンクリーゼ」と呼ばれる急性のショック状態に陥る危険があります。これは非常に緊急性が高く、命に関わる事態です。アジソンクリーゼを起こすと、以下のような症状が見られます。
・突然ぐったりして動けなくなる
・立ち上がれない、ふらつく
・重度の脱水状態
・体温の低下
・意識がもうろうとする、反応が鈍くなる
このような症状が見られた場合、「少し様子を見よう」という判断は大変危険です。迅速な対応が命を守る鍵となるため、異変を感じたらすぐに動物病院へ相談してください。
診断が難しい理由と検査の流れ
副腎皮質機能低下症は、先述の通り他の病気と症状が似ているため、診断が非常に難しい病気です。1回の診察だけで確定することは難しく、複数の検査結果を組み合わせて慎重に診断する必要があります。
診断のために行われる検査は、以下の通りです。
・血液検査:体全体の健康状態を確認します
・電解質バランスの測定:特にナトリウムやカリウムの値に異常が見られる場合があります
・ACTH刺激試験:副腎の機能を確認するために不可欠な検査で、確定診断に必要です
また、病気の進行具合や犬の体質によっても数値の現れ方が異なるため、総合的な判断が必要です。経過を追いながら複数回の検査を行うこともあるため、時間をかけた丁寧な診断が重要です。
治療方法と日常管理
副腎皮質機能低下症の治療は、生涯にわたるホルモン補充療法が基本となります。不足しているホルモンを外から補い、体のバランスを整えることが目的です。ほかにも、以下のような治療や日常管理を行うことがあります。
・経口薬または注射によるホルモン補充
・定期的な血液検査による体調モニタリング
・生活環境やストレスの影響を考慮し、薬の量を適宜調整
治療を継続することで、発症前と変わらない生活を送れるようになった子も多く存在します。病気と付き合いながらも元気に過ごしている子たちは多くいるため、希望を持って病気と向き合うことが大切です。
飼い主様ができる日常の観察(早期発見のために)
副腎皮質機能低下症は、初期の変化がとてもわかりにくい病気です。そのため、日頃から愛犬の様子を丁寧に見守り、少しでも「いつもと違う」と感じたら早めにご相談いただくことが大切です。
・食欲、飲水量、排泄状況、元気の有無などを普段からチェックする
・引越しやトリミング、長時間の留守番などストレスがかかる出来事のあとに体調が落ちていないか観察する
毎日の小さな気づきが、病気の早期発見につながります。
診断後に必要なケア(治療継続のために)
副腎皮質機能低下症と診断された場合、以下のように治療を続けながら体調に合わせてサポートしていくことが重要です。
・投薬は必ず継続し、体調に変化があれば早めに動物病院へ相談する
・ストレスや環境の変化によって症状が悪化しやすいため、生活リズムを整え、無理のない環境づくりを心がける
愛犬のそばで一番長く過ごせる飼い主様のサポートが、安心して治療を続けられる大きな力になります。必要なサポートは私たち獣医師もしっかりとお手伝いしますので、いつでもご相談ください。
まとめ
副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、初期症状がはっきりせず、他の病気と見分けがつきにくいため、診断が難しい疾患です。しかし、早期に気づいて治療を始めることができれば、多くの場合で健康な日常生活を送ることが可能です。
「最近少し様子が違う」「何となく元気がないような気がする」といった小さな違和感が、病気のサインである場合もあります。そのようなときは自己判断せず、できるだけ早めに動物病院を受診することが大切です。
当院では、飼い主様に寄り添いながら、丁寧な検査・説明を行い、安心して治療に臨んでいただける環境を整えております。愛犬の健やかな毎日を、私たちと一緒に守っていきましょう。







