「最近、愛犬が以前より散歩を嫌がるようになった」
「どんどん太ってきた」
「愛猫はよく食べているのに痩せてきた」
このような変化に気づき、不安を感じている飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬や猫が年齢を重ねると、活動量が減ったり体型が変化したりする場合があります。そのため、「シニアになったから仕方ない」と考えてしまう方も少なくありません。
しかし、その変化の背景には病気が隠れている場合があります。そのひとつが「甲状腺機能異常」です。甲状腺は体の代謝を調整する重要なホルモンを分泌しており、その働きに異常が起こると全身にさまざまな症状が表れます。
犬では甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」が多くみられ、猫では甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」が代表的です。
そこで今回は、犬と猫の甲状腺疾患について、症状や診断方法、治療方法などを解説します。
甲状腺ってどんな役割?|犬と猫で起こりやすい病気の違い
甲状腺とは、首の気管の両側にある小さな臓器です。
この甲状腺から分泌される「甲状腺ホルモン」は、体の代謝や体温の維持、心臓の働き、活動量などを調整しています。
わかりやすく例えると、甲状腺ホルモンは体のエネルギー消費をコントロールするアクセルのような存在です。
甲状腺ホルモンが不足すると、体全体の働きがゆっくりになります。その結果、元気がなくなったり、太りやすくなったりします。
反対に甲状腺ホルモンが増えすぎると、常にアクセルを踏み続けているような状態になるため、食欲があるにもかかわらず痩せたり、水を飲む量が増えたりする場合があります。
甲状腺の病気は、以下のように犬と猫で発症しやすいタイプが異なります。
<犬で発症しやすいタイプ>
犬で多いのは「甲状腺機能低下症」です。甲状腺ホルモンが十分に作られなくなり、代謝が低下する病気です。
<猫で発症しやすいタイプ>
猫で多いのは「甲状腺機能亢進症」です。甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、代謝が過剰な状態になります。
どちらもシニア期によく見られる病気であり、初期には加齢による変化と勘違いされやすい特徴があります。
実際に診察をしていても、「年齢のせいだと思っていた」という飼い主様のお話を伺う機会は少なくありません。
そのため、いつもと違う様子に気づいた際は、単なる老化と決めつけず、一度動物病院へ相談することが大切です。
犬の甲状腺機能低下症とは?
犬の甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌量が減少し、全身の代謝が低下する病気です。
中高齢の犬でみられるケースが多く、症状がゆっくり進行するため、老化現象と勘違いされやすい特徴があります。
代表的な症状としては、主に以下が挙げられます。
・以前より元気がない
・散歩に行きたがらない
・寝ている時間が増えた
・太りやすくなった
・寒がるようになった
ほかにも、食事量が変わっていないにもかかわらず体重が増えたり、活動量が低下したりする場合は注意が必要です。
さらに、皮膚や被毛にも以下のような異常が表れることがあります。
・毛が抜ける
・毛づやが悪くなる
・左右対称に脱毛する
・皮膚が黒ずむ
・皮膚炎を繰り返す
当院でも、「年齢による体力の低下だと思っていた」「シニアになって太りやすくなっただけだと思っていた」という理由で様子を見ていた犬が、検査の結果、甲状腺機能低下症と診断されるケースがあります。
実際に当院で診察している中で、獣医師が甲状腺機能低下症を疑うきっかけとなることが多いのは、活動性の低下、体重増加(肥満)、左右対称の脱毛といった症状が複数みられる場合です。
もちろん、これらの症状だけで甲状腺機能低下症と診断できるわけではありません。しかし、当院ではこうした特徴的な変化が認められた際には、甲状腺ホルモンの異常も視野に入れながら診察を進め、必要に応じて血液検査をご提案しています。
猫の甲状腺機能亢進症とは?
猫の甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
特に10歳以上のシニア猫に多くみられます。
甲状腺ホルモンが増えすぎると体の代謝が過剰になり、多くのエネルギーを消費するようになります。
そのため、食欲があるにもかかわらず体重が減少するのが大きな特徴です。
また、以下のような症状が表れることもあります。
・よく食べるのに痩せる
・水を飲む量が増える
・尿の量が増える
・落ち着きがなくなる
・夜鳴きをする
・下痢や嘔吐が増える
飼い主様の中には、「以前より元気になった気がする」「食欲があるから問題ないと思っていた」と感じる方もいらっしゃいます。
しかし、食べているのに体重が減少している場合は注意が必要です。
実際に当院でも、「元気だから大丈夫だと思っていたが、体重減少が気になって検査を受けたところ甲状腺機能亢進症だった」というケースがあります。
診察では、多飲多尿、下痢、体重減少がそろっている場合、甲状腺疾患を疑うことがあります。
また、甲状腺機能亢進症は心臓や腎臓にも影響を及ぼす可能性があるため、早期発見が重要です。
診断方法|健康診断の血液検査が早期発見のカギ
甲状腺機能の異常は、症状だけで確定診断できる病気ではありません。
特にシニア期では、加齢による変化や他の病気と症状が似ているため、血液検査による確認が重要になります。検査では、甲状腺ホルモンの値を測定します。
代表的な項目としては「T4(総サイロキシン)」があり、甲状腺ホルモンの分泌状態を評価する際に用いられます。
犬の甲状腺機能低下症ではT4が低下し、猫の甲状腺機能亢進症ではT4が上昇する傾向があります。
また、甲状腺疾患は全身に影響を及ぼすため、あわせて以下のような項目も確認します。
・肝臓の数値
・腎臓の数値
・コレステロール値
・血球検査
例えば、犬の甲状腺機能低下症ではコレステロール値の上昇がみられる場合があります。
一方、猫の甲状腺機能亢進症では、腎臓病が隠れているケースもあるため、腎機能の評価も欠かせません。
なお、甲状腺機能異常は、初期には目立った症状が少なかったり、加齢による変化と見分けがつきにくかったりするため、日常生活の様子だけでは気づきにくいことがあります。そのため、定期的な検査が重要です。
特に7歳を過ぎた犬や猫では、加齢とともに病気のリスクが高まるため、半年に一度の血液検査を含めた健康チェックをおすすめしています。定期的なチェックを続けることで、病気の早期発見や生活の質の維持につながります。
治療方法|その子に合わせた治療を考えることが大切
治療方法は犬と猫で異なります。代表的な治療方法は以下のとおりです。
<甲状腺機能低下症(主に犬)>
甲状腺ホルモンの分泌が不足するため、不足しているホルモンを補う「甲状腺ホルモン製剤」の内服治療が基本となります。
治療開始後は定期的な血液検査を行い、ホルモン値を確認しながら投薬量を調整します。適切な治療を継続することで、活動性の改善、体重管理、脱毛や皮膚症状の改善が期待できます。
<甲状腺機能亢進症(主に猫)>
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるため、ホルモンの産生を抑える内服薬による治療が一般的です。また、ヨウ素を制限した療法食による食事管理を行う場合もあります。
治療中は定期的な血液検査を実施し、甲状腺ホルモン値や腎機能などを確認しながら治療方針を調整していきます。
なお、治療方法は年齢や体調、併発している病気の有無によって異なります。
そのため、診断後は定期的な血液検査を行いながら、ホルモン値や体調の変化を確認していきます。
甲状腺疾患は、一度治療を始めたら終わりという病気ではありません。長期的な管理が必要になるため、その子にとって無理のない治療を選択することが大切です。
当院では、飼い主様とのコミュニケーションを大切にしています。治療内容や今後の見通しについて丁寧にご説明しながら、愛犬や愛猫の生活の質を維持できるよう、一緒に治療方針を考えていきます。
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まとめ
甲状腺機能異常は、シニア期の犬や猫で比較的よくみられる病気です。
しかし、初期には老化による変化と勘違いされやすく、発見が遅れてしまう場合があります。
犬では「元気がない」「太る」「毛が抜ける」、猫では「食べているのに痩せる」「水を飲む量が増える」といった変化が重要なサインです。
こうした症状がみられた場合は、年齢のせいと決めつけず、早めに動物病院へ相談することをおすすめします。
また、甲状腺機能異常は、健康診断や血液検査によって早期発見できる可能性があります。特にシニア期の犬や猫では、定期的な健康チェックが大切です。
「最近少し様子が変わった気がする」「以前と比べて元気がない気がする」と感じた際は、その小さな変化を見逃さないようにしましょう。
なお、当院では犬や猫の健康診断をはじめ、シニア期の健康管理や内分泌疾患の診療にも対応しております。気になる症状がございましたら、お気軽にご相談ください。愛犬や愛猫がこれからも健やかな毎日を過ごせるよう、丁寧にサポートいたします。
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