「最近、うちの猫が元気ない気がする」「急に遊ばなくなったし“うつ病”かも?」こんなふうに感じて、不安になって検索される飼い主様も少なくありません。
実際、「猫 うつ病」と検索すると多くの情報が出てきますが、じつは獣医学的に「猫のうつ病」という正式な病名は存在していません。
猫は人間と違って、気分や感情の落ち込みを言葉で訴えることはできません。そのため、いわゆる“うつ状態”のような様子を見せていても、実際には体の不調やストレスが原因であることがほとんどです。
今回は、「元気がない」「うつっぽい」と感じたときに考えられる体の病気や環境要因、家庭でのケアのポイント、そして動物病院に相談すべきタイミングについてわかりやすく解説します。
「猫のうつ病」という病名は存在するの?
「猫のうつ病」という言葉はインターネットやSNSで見かけることがありますが、獣医学の世界で正式な診断名として使われることはありません。
人間のうつ病は、脳内の神経伝達物質のバランス異常や感情・意欲の低下などをもとに診断されますが、猫の場合はそのような“内面”を客観的に測ることができないため、人間と同様の基準で「うつ病」と診断することはできません。
ただし、次のような“抑うつ様症状”が見られるケースは存在します。
・以前は遊んでいたのに、まったく遊ばなくなった
・鳴かなくなった、反応が鈍くなった
・ひたすら隠れて出てこない
・食欲がなくなった/水を飲まなくなった
・トイレの回数が減った・粗相が増えた
・毛づくろいをしない、被毛がボサボサに
・飼い主様に寄ってこなくなった・触られるのを嫌がる
このような変化が見られたとき、飼い主様の多くは「うつっぽい」「性格が変わった?」と感じます。
しかし、こうした変化の背景には身体の病気やストレスなど、明確な原因があることがほとんどです。
元気がないときに疑われる“体の病気”
猫が「うつ状態」のように見えるとき、実際には身体的な病気が隠れている可能性が非常に高いです。
特に高齢の猫では、以下のような慢性疾患がじわじわと進行していることがあります。
〈内臓の病気による全身的な不調〉
・慢性腎臓病
高齢猫に多く見られ、食欲不振や脱水、元気の低下が初期症状となります。
・糖尿病
水をよく飲む・たくさんおしっこをする・体重が減るといった症状のほか、脱水や筋力の低下で動かなくなることもあります。
・甲状腺機能亢進症
食欲はあるのに痩せてきた、落ち着きがない、鳴き声が大きくなるなどの行動変化もみられます。
・消化器疾患(胃腸炎、便秘など)
嘔吐や下痢、便秘が続くと元気をなくす原因になります。
〈痛みや違和感による行動の変化〉
・関節炎やケガによる痛み
じっと動かない、ジャンプしない、触られるのを嫌がるといった変化は、痛みのサインかもしれません。
・神経疾患(てんかん・脊椎疾患など)
ふらつきやけいれん、異常な姿勢を取るなど、行動に異変が見られます。
このように、一見“気持ちの落ち込み”のように見える猫の変化も、実は体の異常からくるものが多いのです。
「性格が変わったのかな」と見過ごさず、ぜひ身体の異常にも目を向けてあげてください。
環境ストレスによっても“元気がなくなる”ことが
猫はとても繊細な動物で、小さな変化にも敏感です。
体に異常がなくても、ストレスによって“うつっぽい”状態になることもあります。
たとえば、次のような環境の変化がストレスの引き金になります。
・引っ越しや模様替え、家のリフォーム
・飼い主様の生活スタイルの変化(在宅→外出が増えるなど)
・家族構成の変化(赤ちゃんの誕生、同居者の出入り)
・新しくペットを迎えた(猫・犬・小動物など)
・トイレの場所や砂の種類が変わった
・多頭飼育によるテリトリーや相性ストレス
猫は「今までの生活スタイル」が崩れることで、大きな不安を感じやすい動物です。
こうしたストレスが原因で、隠れたり、無気力になったり、食欲を落とすことがあります。
ご自宅でできることは?ストレスケアと環境見直し
元気がない、いつもと様子が違う...そんなときは、無理に構ったりせず、まずは環境を整えてあげましょう。
◆ 環境を整えるためのポイント
・安心できる隠れ場所を確保する(クローゼットの中や狭いスペースなど)
・高い場所やお気に入りの寝床を用意する
・ひとりになれる静かな空間を作る
◆ 少しずつ生活に変化を
・ごく短時間でも、猫の好きなおもちゃで遊ぶ時間を意識的に作る
・触れ合いが好きな子なら、ゆったりと声をかけたり撫でたりしてあげる
◆ 食事サポートも大切
・フードを温めて香りを強くする
・ふやかす・ペースト状にするなど、食べやすく工夫する
ただし、市販のサプリメントやストレス軽減グッズを使う際は注意が必要です。体に合わないこともあるため、使用前に必ず動物病院で相談してください。
どんなときに動物病院に相談すべき?
「元気がない」と感じたとき、受診すべきか迷う方も多いと思います。
以下のような症状が数日以上続く場合や、急に現れた場合は、早めの受診をおすすめします。
〈受診の目安〉
・食欲がなく、水も飲まない
・排尿や排便の回数が少ない/粗相が続く
・体重が急に減った
・鳴き方が変わった、鳴かなくなった
・抱っこや触られるのを極端に嫌がる
・ふらつく・けいれん・呼吸が荒い など
動物病院では、身体検査・血液検査・画像検査などを通じて、体の異常の有無を丁寧に確認していきます。
また、飼い主様からの「最近こんなことがあった」「引っ越しをした」などの情報は非常に重要です。どんな些細なことでも構いませんので、遠慮なく教えてください。
なお、「うちの子を病院に連れて行くのが難しくて…」とためらわれる方もいらっしゃるかもしれません。
当院では、そうした飼い主様にも安心してご相談いただけるよう、ご希望に応じて往診にも対応しています。ご自宅での診察をご希望の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
Q&A(よくある質問)
Q:うちの猫、寝てばかりいるけど大丈夫?年齢のせいではないの?
A:猫はもともとよく眠る動物ですが、「今までより明らかに活動量が減った」「遊びや反応が減った」など、これまでと違う様子がある場合は注意が必要です。
年齢による変化と思い込まず、体調の変化やストレスの可能性も考えてあげましょう。
Q:引っ越しや家族の変化があったけど、それで元気がなくなることってあるの?
A:はい、猫はとても環境に敏感な動物です。引っ越し、模様替え、家族構成の変化、新しいペットの導入などがストレスになり、抑うつのような行動変化があらわれることがあります。
慣れるまで時間がかかる場合もあるため、無理に刺激せず、安心できる環境を整えてあげましょう。
Q:遊びにも反応しないし、呼んでも来ない…嫌われてしまったのでしょうか?
A:猫が飼い主様に対して距離を取るような行動をするのは、必ずしも「嫌いになった」わけではありません。
元気がない、気分が沈んでいる、あるいは身体的にしんどいといった理由でスキンシップを避けている可能性もあります。猫の気持ちに寄り添いながら、無理なく見守ってあげましょう。
Q:ネットで見たサプリやアロマを使ってみても大丈夫?
A:市販のサプリやアロマ製品は、猫には合わない成分が含まれていることもあります。
誤った使用はかえって体調を崩すリスクがあるため、必ず獣医師に相談してから使用するようにしてください。
まとめ
猫が元気をなくしているとき、その背景には体の病気やストレスなど、何らかの原因があることがほとんどです。
「性格かな」「年齢のせいかも」と見過ごしてしまわず、飼い主様が小さな変化に気づいてあげることが、愛猫の健康を守る第一歩になります。
当院では、猫の行動や生活環境の変化にも目を向けた、総合的な診療とやさしいサポートを心がけています。「なんとなくいつもと違うな」と感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。





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